照明計画は「光の設計」。陰影を愉しむ家づくり
私たちは日々、光に包まれて暮らしています。
けれど、その「光の質」や「光と影のバランス」まで意識して暮らしている方は多くありません。
家づくりにおいて、「明るい家=良い家」とされがちですが、本当に心地よい空間とは、明るさ一辺倒ではなく、“陰影”を味わえる空間ではないでしょうか。
今回は、照明をただの明るさの確保としてではなく、“光の設計”として捉える住まいのつくり方について、私の考えを綴ってみたいと思います。
■ 「明るければいい」は卒業しよう
昔は家の照明といえば、「天井にシーリングライトをつける」が当たり前でした。
とにかく一部屋を満遍なく照らし、**「明るさ=安心・快適」**という考えが根強かったのです。
けれど、照明計画も住まい方も多様化した今、
この考えだけでは空間に“豊かさ”や“奥行き”が生まれません。
特に自然素材をふんだんに使った空間では、
「光が当たる部分」「影になる部分」があることで、素材の立体感・質感が際立つのです。
木の陰影、塗り壁のざらつき、和紙の透け感──
光があるからこそ、それらは「表情」として現れます。
■ 光と影の“コントラスト”が心を落ち着かせる
照明の役割は、ただ物を見せるためではありません。
空間の雰囲気をつくり、気持ちを切り替えるためのスイッチにもなるのです。
たとえば、
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夜、リビングの間接照明だけを灯すと、ぐっとリラックスモードに
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キッチンは手元灯だけで十分。天井から全体を照らす必要はない
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書斎や寝室は、「ちょっと暗いくらい」が集中や安眠につながる
こうした**“場面に応じた光の設計”**をしていくことで、暮らしのリズムも整っていきます。
とくにタテルナラの家は、吉野杉の床や漆喰・和紙壁など、陰影のある素材が主役です。
それらを照明で「照らす」というよりも、“浮かび上がらせる”感覚が大切なのです。
■ 設計段階から考える「光の導線」
私たちの家づくりでは、照明計画は設計段階から考え始めます。
というのも、照明は「あとづけ」ではなく、間取りと一体で考えるべきものだからです。
たとえば、
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吹き抜けの高窓から入る自然光+階段の足元灯で“朝の光”を感じる設計
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壁面に埋め込んだブラケットライトで、土間玄関を柔らかく包む
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間接照明と梁の陰影で、天井の高さや素材感を引き立たせる
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吊り下げ照明のコードをあえて見せて、空間にリズムを加える
これらはすべて、「どう光が動くか」「人の視線がどう動くか」を設計図の段階から意識しているからこそできることです。
■ 灯りがもたらす「物語」
灯りには、空間の演出だけでなく、“記憶”や“感情”にも作用する力があります。
例えば、こんなエピソードがあります。
あるOBのお施主様が、夜、リビングの間接照明だけで過ごしていたところ、
「子どもが、“この家、夜のほうがきれいだね”と言ったんです」と。
そのご家庭では、夜の静けさの中で、
杉の床に灯りが反射し、塗り壁の表情がより豊かになっていたそうです。
これは**“明るいから快適”ではなく、“光と影があるから美しい”という体験**です。
■ 照明器具ではなく、「暮らしを照らす光」を選ぶ
最後に、照明器具の選び方についても一言。
高性能なLED照明、スマート制御、調光調色……
技術は進化していますが、大切なのは**「この光でどんな時間を過ごしたいか」**を考えること。
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食卓には、料理が美味しそうに見える少し暖色寄りの光を
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廊下には、ほんのりと足元を照らすだけの灯りを
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寝室には、読書灯とやわらかいフロアライトを
器具を選ぶのではなく、“暮らしを照らす光”を選ぶ感覚が大切だと私は思います。
■ 陰影は、暮らしの余白を生む
光があるから、影が生まれる。
影があるからこそ、光の美しさが際立つ。
これは、空間にも人生にも通じることかもしれません。
家を建てるということは、単に性能や間取りを整えることではなく、
その家でどんな時間を過ごしたいかをデザインすること。
「照明=光の設計」は、暮らしの美意識を形にするためのとても大切な要素なのです。
ぜひ、次の家づくりでは、“光と影のある豊かさ”を楽しんでみてください。