石澤 眞知子 石澤 眞知子

春と秋が短くなった今、家に求められる断熱と遮熱のバランス

公開日:2025/10/06(月) 更新日:2025/10/03(金) 家づくりのこと

春と秋が短くなった今、家に求められる断熱と遮熱のバランス


四季が崩れつつある日本の気候

「春はうららかに、秋はしっとりと」——かつての日本の暮らしには、四季の移ろいを楽しむ時間がありました。
しかし、近年の気候はどうでしょうか。春は一瞬で夏に変わり、秋はすぐに冬へと駆け足で過ぎてしまいます。

  • 5月から30℃を超える真夏日が頻発

  • 10月でも30℃近い残暑日が続く

  • 11月下旬に突如寒波が到来し、暖房が必須に

  • 梅雨や秋雨前線は豪雨災害をもたらす

今や私たちは、**「春と秋が短くなり、夏と冬が長く厳しい“二季”の時代」**に生きています。
当然ながら、家の設計もこうした気候変動に対応する必要があります。


断熱と遮熱、それぞれの役割

断熱とは

断熱は、外気の温度を室内に伝えにくくする工夫です。
壁・床・天井・窓に高性能な断熱材や建材を組み込み、夏は外の熱を遮り、冬は室内の暖かさを逃さないことを目的とします。

  • 冬:暖房で温めた空気を長く保持

  • 夏:外からの熱気を侵入させにくい

つまり、一年を通して室温を安定させる基盤が断熱です。


遮熱とは

遮熱は、主に太陽からの熱エネルギーを室内に入れない工夫です。
屋根や外壁の表面材、ガラスの性能、庇や外付けブラインドなどによって直射日光を遮ります。

  • 夏:強い日射を遮り、冷房負荷を軽減

  • 冬:日射を取り込む工夫で暖房効率を高める

つまり、断熱と組み合わせることで“快適さ”と“省エネ”を最大化する仕組みが遮熱です。


なぜ今、「断熱と遮熱のバランス」が重要なのか

春や秋が短くなった今、暮らしの大部分は夏の猛暑と冬の厳寒に直面しています。
そのため、家づくりは次のような課題に対応しなければなりません。

  1. 夏の酷暑:40℃近い気温、強烈な日射、熱帯夜

  2. 冬の寒波:室内外の温度差によるヒートショック、光熱費の増大

  3. 短い中間期:自然の快適さを取り込むチャンスが少ない

これらに対応するには、「断熱」と「遮熱」のどちらか片方では不十分。
両方をバランスよく設計に取り入れることが、現代住宅に求められる条件なのです。


夏の暮らしを快適にする「断熱×遮熱」の工夫

夏の問題は、「外の熱が室内に入りすぎる」こと。
ここで必要なのが、断熱と遮熱の両輪です。

  • 断熱強化:外壁・屋根に高性能断熱材を充填し、室内への熱伝導を抑制

  • 高性能サッシ:樹脂窓+Low-Eトリプルガラスで窓からの熱流入を最小化

  • 遮熱設計:庇や外付けブラインドで直射日光を遮る

  • 植栽の工夫:落葉樹を植え、夏は葉で日差しを遮り、冬は枝越しに光を取り込む

これにより、冷房を少しの稼働で効かせやすくし、電気代を抑えながら体感温度を快適にできます。


冬の暮らしを支える「断熱×日射利用」

冬の課題は、「暖房の熱を逃さない」ことです。
同時に、限られた太陽熱を上手に活かすことも重要です。

  • 断熱強化:床下・壁・天井に十分な厚みの断熱材を施工

  • 窓の工夫:熱を逃しやすい窓は樹脂製+三層ガラスで補強

  • 日射利用:南面に大きな窓を設け、冬は太陽光を取り込む

  • 蓄熱性能:土間やタイル床で昼間に取り込んだ熱をゆるやかに放出

結果として、家全体を安定した暖かさで包み、ヒートショックを防ぐ健康的な空間を実現します。


短い春と秋を活かす工夫

春と秋は短いながらも、窓を開けて外の空気を楽しめる貴重な時間です。
そのための工夫も忘れてはいけません。

  • 南北に窓を設け、自然な通風経路を確保

  • 高窓や吹き抜けを利用し、上昇気流で排熱

  • 中庭やウッドデッキを通じて自然と触れ合える空間に

「暑さ寒さを防ぐ家」でありながら、心地よい季節はしっかり楽しめる住まいが理想です。


数値で確認する「快適さ」

断熱や遮熱の性能は、感覚だけで判断してはいけません。
数値で“見える化”することが重要です。

  • UA値(外皮平均熱貫流率):家全体の断熱性能

  • C値(相当隙間面積):すき間の少なさ、気密性能

  • ηAC値・ηAH値:冷房期・暖房期における日射取得率(遮熱性能)

これらを設計段階でシミュレーションし、完成後に測定することで、「建ててから失敗した」リスクを防げます。


タテルナラが目指す「断熱と遮熱の両立」

私たちタテルナラでは、奈良の気候特性に合わせて「断熱と遮熱のバランス」を重視した家づくりを行っています。

  • 吹込みグラスウール300mm+フェノールフォーム付加断熱

  • 樹脂サッシ+トリプルガラスによる窓の高断熱化

  • 南面の庇+外付けブラインドで日射コントロール

  • 調湿性のある自然素材を採用し、湿度の安定化

  • 中庭・坪庭・植栽で季節感を楽しめる空間設計

これにより、**「数値で裏付けられた性能」と「五感で感じる心地よさ」**の両立を実現しています。


二季時代に必要な住まいの条件

春と秋が短くなった現代において、家に求められるのは次の3点です。

  1. 夏の猛暑を防ぐ遮熱と断熱の組み合わせ

  2. 冬の厳寒に耐える徹底した断熱と日射利用

  3. 短い春と秋を楽しめる通風・外とのつながり

これらをバランスよく備えた家こそが、“二季の時代”を健やかに、快適に、そして経済的に暮らす答えです。