福井 善行 福井 善行

「あ、この家はいい家だ。現場監督が心で感じる決定的なサイン」

公開日:2025/12/05(金) 更新日:2025/11/21(金) 家づくりのこと

現場監督が“いい家だな”と心から思う瞬間

― 現場の最前線から見える「本当に良い家」の条件 ―

家づくりの現場に日々立っていると、ふとした瞬間に心の底から
「この家は、本当にいい家になるなぁ」
と感じることがあります。

それは、高価な設備が入ったときでも、仕上げが豪華なときでもありません。
もっと静かで、もっと本質的で、もっと“家そのもの”の質が滲み出る瞬間です。

今回は、奈良県で高気密・高断熱の家づくりを続けている現場監督として、どんなときに「これは良い家だ」と確信するのか。そのリアルをお伝えします。


■いい家は「図面通りにつくる」だけでは生まれない

現場監督をしていると痛感します。
家は図面ではなく、現場でつくられるということを。

どれだけ良い設計でも、現場の施工精度が低ければ意味がありません。
逆に、図面以上の判断や丁寧さが積み重なった家は、住んだあとに必ず違いが出ます。

“いい家だな”と思う瞬間の背景には、必ず「人の手の丁寧さ」が存在します。
それは見えない場所での仕事ほど強く現れます。


■瞬間①:構造の「素直さ」があらわれたとき

家の良し悪しは、実は仕上げよりずっと前に決まります。
上棟後、構造材が姿を見せている状態こそ、家の「素直さ」が露わになる瞬間です。

構造が美しい家には共通点があります。

・柱の垂直がぴたりと揃っている
・梁が一直線に架かっている
・耐力壁の釘が一定のピッチで“まっすぐ”
・金物が適切な位置でしっかり固定されている
・無駄な欠き込みがなく、構造がストレスを受けていない

ひとつひとつは小さなことですが、これらが揃うと、構造全体に「清潔感」のようなものが生まれます。

その瞬間、私は心から
「この家は誠実に建てられている」
と実感します。

構造が美しい家は、必ず仕上がりも美しい。
これは十年以上現場に立ち続けて確信していることです。


■瞬間②:光が“気持ちよく”入っていると感じたとき

いい家は光の入り方が違います。
現場の途中で建物の中に入ったとき、ふっと気持ちが軽くなるような光が差し込んでいる家があります。

これは設計と施工が正しくリンクしている証拠です。

・朝日の入り方が低く穏やか
・南面の光がきつすぎず、柔らかく拡散する
・ハイサイド窓から天井に反射して広がる
・冬は光が奥まで届き、夏は軒や庇でしっかり遮られる

光は嘘をつきません。
設計の意図が現場で正しく形になると、まるで家が呼吸しているような柔らかな光が生まれます。

その空間に立った瞬間、
「この家は住む人にとって、きっと心地いい場所になる」
と確信します。


■瞬間③:職人さん同士が自然にコミュニケーションを取っているとき

いい家は“チーム”でつくられます。

現場でよく見る光景があります。

・大工さんが電気屋さんに「ここ配線通すなら、この順番のほうがいいよ」と声をかける
・設備屋さんが「水圧考えると配管位置、少し変えたほうがええな」と提案する
・内装屋さんが「この下地ならきれいに仕上がるで」と確認する

こうした会話が自然に交わされている現場は、例外なく仕上がりが美しい。
職人同士が相手の仕事を尊重し、相手が困らないように動いているからです。

現場監督としてその光景を見るたび、
「この家はいい家になる」
と心の底から思います。

逆に、職人同士が距離を置いている現場は細かいミスが起きやすい。
家の質は“現場の空気”にも宿るのです。


■瞬間④:自然素材がその家の光と空気に馴染んだとき

タテルナラでは、吉野杉・焼杉・珪藻土・土佐和紙など、自然素材をよく採用します。
これらの素材は光によって表情を変え、時間とともに育ちます。

仕上げの段階で現場に夕方の光が差し込んだとき、素材がぐっと生きてくる瞬間があります。

・吉野杉の赤身がしっとり深みを増す
・土佐和紙がやわらかく光を吸収して反射する
・珪藻土の陰影が部屋を静かに包む
・真鍮が少しだけ色づき、空間に表情を出す

これらが“その家らしい雰囲気”として融合したとき、
「ああ、この家は一歩ずつ成熟していくな」
と感じます。

自然素材は新築時より、時間が経ってからのほうが美しい。
その“始まり”が見える瞬間が、現場監督としてたまらなく好きです。


■瞬間⑤:初めてエアコンを入れたときに空気がすっと整う瞬間

完成間近の家でエアコンを試運転すると、家の性能がよく分かります。

・数分で室温が均一になる
・床付近の冷気が残らない
・風量を弱にしても快適
・音が静かで、空気が澄んでいるように感じる

これは断熱・気密・換気・日射取得・日射遮蔽、すべてが正しく機能している証拠。
電気的な“効き”ではなく、家全体の“気配”として分かります。

この瞬間、現場監督としては
「よし、しっかり性能が出ている」
と心の中で深く頷きます。


■瞬間⑥:お施主様の「わぁ…」というひと言

家づくりの中で最も嬉しい瞬間は、引き渡し直前にお施主様が家に入ったときの表情です。

玄関を入って、
「わぁ…」
とため息混じりに出る小さな声。

リビングを見て、
「気持ちいいですね」
と柔らかく微笑まれる瞬間。

この一言のために、現場で積み重ねてきた時間がすべて繋がるような気がします。

家は性能でも、素材でも、デザインでも完結しません。
住む人が心から「気持ちいい」と感じて初めて“いい家”になる。

この瞬間こそ、現場監督にとって最高のご褒美です。


■結論:いい家は「見えない細部の誠実さ」が決める

現場に立ち続けて感じる結論はただ一つ。

いい家とは、誠実さの積み重ねでつくられる。

構造の美しさ
光の質
職人同士の連携
自然素材の馴染み
性能の確かさ
住む人の笑顔

これらがひとつでも欠けると、家は“普通”になってしまう。
しかし、すべてがそろったとき、家は“特別”になる。

私はこれからも、現場のひとつひとつの工程に誠実に向き合いながら、
「いい家だな」と心から思える住まいを増やしていきたいと思います。


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