石澤 眞知子 石澤 眞知子

リモート時代、注文住宅の防音対策

2025/05/09(金) 家づくりのこと

リモート時代に求められる「静けさ」

近年、働き方改革や感染症の影響によりリモートワークが急速に普及しました。通勤時間がなくなり、家庭での時間が増える一方で、「静かな環境で集中したい」「会議の声が家族に聞こえてしまう」など、防音に関する悩みも多く聞かれるようになっています。

特に新築住宅を建てる場合は、最初から防音性を考慮した設計を行うことで、後からの対応よりも高い効果が得られ、快適な在宅ワーク環境を実現できます。


1. 音の種類と性質を理解する

空気伝播音

人の話し声やテレビの音など、空気を介して伝わる音です。防ぐには「遮音」が必要です。

固体伝播音(振動音)

足音や家具の移動音など、建物の構造を通して伝わる音です。主に「防振・吸音」の対策が求められます。

外部騒音

車の通行音、工事の音など。外壁や窓の性能に左右されるため、外部との遮音がカギとなります。


2. 家全体で考える防音の基本設計

間取りによるゾーニング

防音性を高めたい部屋(書斎やワークスペース)を、音の影響を受けにくい場所に配置するのが基本です。

  • リビングやキッチンなど音の出やすい場所から離す

  • 通りに面した場所や隣家に近い場所は避ける

  • トイレや収納スペースを「音の緩衝帯」として活用

吹き抜けやオープン階段の影響

開放感を出す吹き抜けやリビング階段は、音が家全体に響きやすくなります。また、気密住宅は特に音が響くので、在宅ワークのための静かな空間をつくるには、独立した個室を確保するのが望ましいです。


3. 部屋ごとの防音対策

■ 壁

壁の中に断熱材と吸音材を組み合わせて入れることで、空気伝播音の遮断が可能です。

  • 【使用素材例】グラスウール、防音ボード(石膏ボード+制振層)、遮音シート

  • 【施工】二重壁構造にする、間柱間に吸音材を高密度で充填する

■ 床

2階の足音などを防ぐための対策。

  • 【使用素材例】遮音マット、吸音フローリング、二重床構造

  • 【施工】床の下に防振ゴムや遮音材を敷くことで階下への音を軽減

■ 天井

上階の物音や外部の雨音を防ぐ目的。

  • 【施工】天井裏に吸音材を入れ、石膏ボードの二重張りや制振材を使用

■ ドア

軽量の建具では音が漏れやすいため、遮音性の高いドアを選ぶ。

  • 【選定】中が中空でなく密実な「防音ドア」や「重厚な木製ドア」

  • 【補助】ドア下の隙間を防音パッキンやドアスイープで塞ぐ

■ 窓

外部騒音への対策として極めて重要な部分です。

  • 【選定】防音性の高い複層ガラス(ペアガラス)や、トリプルガラス、防音合わせガラス

  • 【施工】サッシは気密性の高い樹脂サッシやアルミ樹脂複合サッシ

  • 【追加策】内窓(二重窓)を設けて遮音効果を倍増


4. 素材による防音性能の違い

素材名 特徴 用途例
グラスウール 吸音性・断熱性が高く価格も手頃 壁・天井・床の中材

ロックウール
セルロースファイバー

吸音性+耐火性に優れる
高密度かつ多孔質で防音効果あり
壁・天井
壁、天井
石膏ボード(厚手) 高密度で遮音効果あり 壁の仕上げ材
遮音シート 空気音の遮断に効果的 壁・床・天井の下地材として使用
吸音パネル 室内反響音の軽減 書斎や音楽室の壁面仕上げ

5. 生活音に配慮した工夫■ 室内での音の「回り込み」を防ぐには、家具の配置も有効です。書棚やカーテンなどを音の伝播方向に設置すると効果あり。

  • 家電製品の音(冷蔵庫・洗濯機など)は在宅勤務部屋の隣に配置しないようにする。 在宅ワーク部屋の床材はカーペットやコルク材など吸音性のあるものを選ぶと、足音や反響音を抑えられます。


6. 書斎(ワークスペース)の防音設計の実例

■ 独立型書斎

  • 玄関近くや2階の一角に配置

  • 壁は遮音シート+石膏ボード二重張り

  • 防音ドア+ドア下スイープ設置

  • 小型の換気扇を防音ダクト付きで設置(部屋が密封されるため、換気システムが必要)

■ 半個室型(在宅ワークコーナー)

  • リビングに隣接した壁付きのデスクスペース

  • 書棚や間仕切り家具で遮音

  • 天井からの吊り下げ吸音パネル設置


7. 将来のライフスタイル変化にも対応する

リモートワークは一時的なものではなく、今後も多くの家庭で定着すると考えられます。新築時にしっかりと防音設計を行っておくことで、将来的にワークスペースを趣味部屋や勉強部屋として転用しても快適に使い続けられます。

また、子ども部屋や寝室にも防音効果があると、家全体の快適度が上がります。家族構成やライフスタイルに合わせて、間取りや素材を柔軟に選びましょう。


まとめ:防音は「住まいの質」を大きく左右する

リモートワーク時代の住宅づくりでは、「音のストレス」をいかに減らすかが重要です。防音は後からの対応が難しい分、設計段階での対策が非常に有効です。書斎の使用頻度や、職種に応じて対策することが大切です。

ポイントは以下のとおりです:

  1. 音の種類を理解し、適切な対策を行う

  2. ワークスペースの場所と素材に工夫を加える

  3. ドア・窓・壁など各所の遮音性能を高める

  4. 家具や素材で室内の音環境を整える

  5. 将来的な用途変更も視野に入れて設計する

静かな環境は、集中力を高め、心の余裕をつくります。防音性の高い住まいは、リモートワーカーにとって大きな武器となるでしょう。